母の〈孝道〉TV:世代間の情報格差が生み出す新しいビジネス
My mother’s ‘Hyodo’ TV: To Get Over the Information Gap of Generations in Seoul

ペク・ソンス Seongsoo Baeg

「母のテレビを〈孝道TV〉に変えていい?」とソウルの妹から電話をもらったとき、私の頭をよぎったのは母が使っている〈孝道電話〉と〈孝道ラジオ〉だった。孝道(ヒョド)は、日本の親孝行の意味である。

ソウルに帰る私を迎えてくれるのは母とテレビだ。私は日本にいるあいだに見逃した韓国の番組を母のテレビでチェックしつつ、母のVOD(Video On Demand)リクエストにも応じる。母と私のささやかな共感の時間である。それが可能になったのも、テレビの進歩のおかげだ。

母のテレビは、放送とインターネットの融合で提供されるサービスに加入している。地上波放送と200チャンネルほどのケーブル放送が観られ、VOD、クラウドDVD、SNSのほか、オープンIPTV(Open Internet Protocol TV)も利用できる。しかもほとんどの機能が一つのリモコンで操作できる。

しかし母には、地上波といくつかのケーブルチャンネルで充分だ。利用しないサービスは使わずに済むのなら話は簡単だが、母の問題は、リモコンを間違って押していくと画面が理解できない状態で操作不能に陥ってしまうことである。こうなると、誰かが直してくれるまで母はテレビが観られない。そのため、家族が母を一人にして家を空けるとき、心配なのは留守番する母より母のテレビということになる。

そこで登場するのが、60歳以上が契約できる〈孝道TV〉である。余計な機能は何もなく、地上波とケーブル放送だけが利用できる。契約料も安い。シンプル・イズ・ベストなのだ。しかしそうなると、私は母と一緒にVODを観ることも、クラウドDVDを集めておくこともできなくなる。

韓国のメディアには、〈孝道〉ビジネスが存在する。急速なメディア発達に戸惑う年寄りたちを持つ子供世代に向けて、親が安心して使えるものをプレゼントしなさいというものである。性能がシンプルだから安く、その安さは子供にもうれしいだろう、と。メディアの発展論理に、しばしば人間は置き去りにされる。速度が速いほど、その流れからこぼれ落ちる人は多くなる。世代間の情報格差は広がる一方だが、またそこに新しいビジネスが生まれるのだ。

2013年、日本ではパナソニックがインターネットを融合させた新しいテレビを出したとき、民放各社がそのCM放映を拒否する騒ぎがあった。拒否の理由は、テレビにテレビ放送波以外の情報が表示されてはならず、テレビの画面に映るのが放送なのか、インターネットなのか区別できずに混乱を招くから駄目だということらしい。日本にはメディアの最先端技術がある。それを待っている視聴者もいる。そしておまけに、変化を好まない既存業界もある。

さて、〈孝道TV〉は世代間の情報格差に対する優しいフォローアップなのか、もしくは踏んだり蹴ったりの話なのか。それはまさしく受け手の解釈しだいである。