2015年12月発行の『5』第4号、もうお手にとっていただけたでしょうか。
今日は、この第4号の表紙の写真をどうやって撮ったのかをご紹介します。

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上の写真が、第4号の表紙に使った写真です。夕暮れの海の上空に、「5」の文字が浮かんで見えています。これは Photoshop で合成したものではなく、「5」の文字をプリントした透明なフィルムをカメラの前に配して、向こうの景色と重ねて撮影したものです。

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第3号までの表紙では、表紙の中央に雑誌タイトルである「5」の文字を大きく配置した画像を使ってきたので、今号でも中央に「5」の文字の配置することは変えずにいこうと決めていました。同時に、第4号の特集テーマが「デザインと社会」なので、人びとの日常の営みを感じられるような風景写真を使えないだろうか、とも思っていました。風景写真の中にどうしたら「5」の文字を入れることができるのか…と考えていて、そうだ透明フィルムと重ねて撮影すればよいのでは、と思いつきました。「5」の輪郭はあまりくっきりさせず、空気の粒子が集まってかたちを成しているようなイメージにしたいと思い、網点で「5」を表現することにしました。さっそく、網点の密度を変えたり図と地を反転させたりした何パターンかの「5」の模様のフィルムを作成しました。

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最初の実験は、窓にフィルムを貼りつけて何枚か撮影するところからはじめました。見えにくいですが、下の写真では、中央の窓に「5」のフィルムを貼ってあります。

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そうして最初に撮ったものが、上の写真です。ドットが大きすぎて、網点というより水玉模様になってしまいました…。なんだかいまひとつ。

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網点をC(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)の掛けあわせにして、ちょっと小さめにしてみたもの。さっきより空が晴れてきました。フィルムを出力して窓に貼って撮影…、とやっている間に、雲のかたちがどんどん変わっていきます。撮影のたびにデスクにのぼったり降りたりしたせいで、膝が痛くなってきました。

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夕焼け空の方が良いかもしれないと思い、西向きの窓からも撮影してみました。時間を空けて数回、エレベータホールの窓枠によじ登って撮影したところ、膝だけでなく腰も痛くなってきましたが、そんなヨボヨボの様子はさいわい誰にも見つからずに済みました。人通りが少なくてよかった…。

この作業をしていたのは2015年8月で、連日よい天気だったのですが、日を変えて何枚か試し撮りをしているうちに、なんとなくもう少し感傷的な雰囲気のある場所で撮りたいと思いはじめました。「デザインと社会」という特集テーマには、あまり晴れやかで清々しい風景よりも、少し重さや暗さの中に人の気配を感じるような場所の方が合っているような気がしてきたからです。翌月にフィンランドに行く予定があったので、ちょうど寒くなりはじめるヘルシンキで撮影の続きをすることにしました。

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2015年9月。ヘルシンキのホテルに到着し、持参したフィルムを開梱したところ。スーツケースに入れて運ぶ間にフィルムに埃や傷がつかないように、持ち運び用のケースもつくりました。ガムテープと引っ越し紐で、今見るとずいぶんみすぼらしい見た目です…。

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さっそく撮影に繰り出しました。そもそもこのとき滞在目的は、フィンランドでワークショップをすることだったのですが、そのワークショップのためのメンバーも撮影に巻き込むはめになりました。一緒に写っているのは、ワークショップのために渡航された田中克明さんと真鍋陸太郎さん(田中さんは『5』編集室メンバーでもあります)。そしてこの珍妙な撮影の様子を撮っているのは、ちょうど今年度ヘルシンキに滞在されている関西大学の岡田朋之さんです。

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「5」のフィルムを持ってくださる岡田さん。岡田さんにはこの後、ワークショップも手伝っていただき、さらに手料理までごちそうしていただき、滞在中にたいへんお世話になりました。

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その場では気づきませんでしたが、通りすがりの人の注目も集めていたようです。そりゃ道ばたにこんな姿勢の人がいたら気になりますよね。集中しすぎて変な顔になってるし。

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撮影しながら道なりに進んでいくと、海が見える場所につきました。表紙に使った写真は、このときここで撮影したものです。水平線の先には、世界遺産のスオメンリンナ島があります。スウェーデンの要塞として開拓され、その後ロシアに占領され、ロシアからフィンランドが独立した翌年にスオメンリンナ(スオミ=フィンランド、の要塞)という名称になったという群島ですが、今ではピクニックの名所としても親しまれているのだそうです。最初にそう聞いたときには、要塞とピクニックという言葉のギャップにドキッとしましたが、歴史と生活がひとつの場所に同居することは、ここにかぎらずどこにでもあるのかもしれません。去っていくフェリーは、スオメンリンナ行きのものなのでしょうか。こんな肌寒い夕暮れに島に向かうフェリーは、いったい人びとのどんな思いを乗せて進んでいくのか、想像がふくらみます。

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こうして、第4号の表紙ができあがりました。完成してみると最初からこのイメージだったような気がしてしまうのですが、つくっている最中はまだなにも見えておらず、偶然や思いつきで進めていったらたまたまこのかたちになっただけのようにも感じます。とりあえず、こんな顛末も含めて『5』を楽しんでいただけたら幸いです。

Masako Miyata / 宮田雅子